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あるところに一人の娘がいました。真珠色の肌に黒い粒のような瞳、癖のある栗色の髪をした愛らしい娘でした。彼女は裕福な家に生まれものですから、幼い頃は可愛らしい人形を、大きくなれば細工の凝った洋服をねだるたびに手に入れたのでした。この娘は幸せな暮らしを出来るのは父母のおかげであると知っておりましたから、何につけても懸命に取り組んだものです。実際のところ、娘は何でも出来るの子供でした。しかし一方で、どれもこれも一番になることは出来ない娘でした。学校で付けられる評価がどれも平均の値であることが分かると娘はそっと目を伏せ、以降その物事に努めるのを諦めてしまうのでした。
この娘には姉がおりました。姉は娘とよく似た愛らしい容貌を持ち、妹に対して威張ることもなく、たいそう仲の良い姉妹でありました。ある日の午後のことです。いつものように姉妹揃って学校から帰ると母親へ一枚の紙を差し出しました。それは花丸で飾られたテスト用紙です。母親は並んだ栗色の頭の、少しばかり高い方を優しく撫でました。そして「まあえらい、貴女はとってもよく出来る子だわ」と言いました。娘は母親と姉を交互に見やると何も告げずに外へ飛び出しました。そのまま家の裏にある野原へ座り込み、夕飯まで戻りませんでした。
その夜、夕飯の器も空になった頃になると母親は微笑みながら娘へ尋ねました。
「貴女のテストをまだ見てないけど、いつになったら見せてくれるのかしら」
娘は黙ったまま鞄の中へ手を入れ、ぐしゃぐしゃに丸められた紙を母親へ手渡しました。並んだ丸の中に幾つかばつ印のあるそれを眺めると母親は「貴女もよく頑張りましたね」と笑いかけました。横から覗き込んだ姉も「十分、えらいわ。あと一歩ね」と言いました。娘は下を向いたままであります。褒められたけれどもちっとも嬉しそうではありません。小さな声で礼を告げると机に置かれたままの器を流しへ運び出すと黙って後片付けを始めます。娘は姉よりも低い点数で褒められたことに不思議な心持ちがしたのです。褒められるべきは自分ではなく姉であると思い、彼女の為に何かしなければと思ったのでした。しかし姉と母は困ったように顔を見合わせてしまいまったきり別の話を始めてしまいました。
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