梅雨入り

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 器用にアイスを舐める沙奈を見ながら、自分もそれにすれば良かったと少し後悔した。それでも外の暑さと口元の涼しさのギャップは心地よかった。このまま時が止まればいのに。そう思えた。こんな近くに幸せがあるなら、普段何を頑張っているのだろう。そんなことを考えていたから、ガリガリ君の一角が落ちたことに気付いたのは沙奈がハンカチを渡してくれた時だった。  アイスを食べながら歩いている二人を他人が見たらカップルだと思うのだろうか。その思いは声に出ていた。思うかもね。平然と沙奈は答えた。  道幅が狭くなり、道の先に三叉路が見えた。僕はそこを右に曲がる。そこにたどり着くまで、長くて静かな時間が流れた。
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