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「…だったら、その魂、私にちょうだい?」
突然横から声が聞こえて、そちらを見た。
そこには、白い着物を着た女性が立っていた。着物の袖には深紅の牡丹が咲き誇っている。瞳も同じくらい赤く、白銀の髪という珍しい容姿をしていた。もっとおかしいのはその頭に猫の耳がつきピクピク動いている。華奢な体の後ろには、フサフサの白い尻尾がうねっている。その数は…9本?
「固まった?…おーい。聞こえているー?」
頭が追い付かなくて観察だけに集中していたら、彼女は僕の目の前で手を振っていた。
「うわぁーーーーーーー!」
腰を抜かしてしまい、その場に座り込んだ。
「あ、やっと動いた」
にっこりと笑い、彼女はこちらを見下ろす。
「夢?僕、もう死んだの?死ぬ前にこんな突飛なことが起こるはずがない。それか何か夢を見て…」
「夢でも死んでもないんだけど。まぁ、いいか!…それで、人間さん?私にその魂くれるの?くれないの?…いらないんだったら私がもらってもどっちでもいいよね?」
笑顔のまま顔を近づけられて、ドキッとする。しかし、混乱が深紅の双眸に吸い込まれるように、頭が鮮明になってきた。
「そう、ですね。死のうと思っていたので、僕にはいりません」
「よかったぁ!空腹死にそうだったんだ!…じゃあ、これ舐めて?」
僕は笑顔で彼女に笑いかけた。
この女性がこなければ今なくなっていた魂だ。別に、必要とされているのであれば、この妖怪に食べられて生きていくための養分にされてもいいのかもしれない。
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