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彼女は懐から取り出した小刀で自分の腕を切った。赤い血が流れ出ている傷口を僕に差し出す。恐る恐る腕をとると、彼女の柔らかい腕の感触に少し驚いた。自分が久しく人肌に触れていないことを実感した。
彼女の傷口にゆっくり舌を這わせる。彼女の体がピクッと反応した気がしたが、それ以上に彼女の温かい血が僕の体内に入っていくのを感じた。
「はっ…苦しい…」
体が熱くなり、どんどん息が上がっていく。体を支えていた手も耐え切れなく、夕日のほうに投げ出される。
体が落下していく横で、夕日が明々と僕を照らす。すると、ボクの体に影が覆う。
「死に急ぐなって。ちゃんと、私があなたの魂を有効的に使わせてもらうんだから」
彼女が僕を抱きとめると、落下の速度がゆっくりになった。
「…な」
「え?」
「…あなたの、…な…まえ」
息が苦しくなりながらも、どうしても彼女の名前が知りたかった。
「あー!そうだな。私の名は…」
彼女が笑顔で自分の名前を口にしたとき、綺麗な名前だなと思った。そう思った瞬間、彼女の顔が少し赤くなったような気がしたが、すぐに意識がなくなった。
このとき、人間である僕の人生は終わったのだと思う。
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