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優一は、今朝から見えるようになった。
鏡越しに男がこちらをじっと伺っているが
振り返ると誰もいない。
優一は、今朝から聞こえるようになった。
少年が「お兄ちゃん、一緒に遊ぼう」と言っているが、
部屋には誰もいない。
風邪の影響か? と優一は考える。
しかし、優一の身体はこれまでになく軽々としている。
一晩十分な睡眠を取ったお陰だろう。
優一は、いつもようにキュウリのサンドイッチを作る。
クリームチーズを塗ったパンに塩揉みしたキュウリを載せ、
もう一枚のパンでサンドする。
心臓マッサージをするかのようにぎゅっぎゅっと食パンを押さえつける。
白い女の肌のような柔らかな食パンは優一の手で満遍なく潰される。
食事を終えると優一は出かける。
昼から優一は、吠えられるようになった。
犬が優一を見つけると毛を逆立て唸り声を上げ、吠え始める。
優一は本屋に入った。
自動ドアが開いた途端、店員も立ち読みしていた客も一斉に振り向いた。
優一は家に帰った。
優一はベッドに腰掛けた。
足元にタオルが落ちてきた。
優一はタオルを拾った。
乾燥している。
優一は思い出した。
昨夜濡らして、熱を冷ます為に顔にかけたタオルだ。
優一はベッドの掛け布団を捲った。
優一は眠っていた。
優一の肌の色は食パンのようだった。
優一は優一の隣で眠った。
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