1244人が本棚に入れています
本棚に追加
そこで繰り広げられていたのは、高校生同士の喧嘩だった。
俺はその中の一人に目が釘付けになった。
それは、陸だった。
普段ののほほんとした様子とも昨日の様子とも違う。
ギラギラとして血走った様な眼、楽しいとは少し違う愉悦の入って笑う口元、容赦なく相手に振り下ろされる拳。その様子は正に学校で噂されている狂犬としての陸そのものだった。
「陸ー。そろそろやめにしときなよ。もうボロ雑巾みたいじゃんそいつ。」
陸の近くに居た副長先輩はニヤニヤと笑いながらもどこか焦った様子だ。
「おい、そのくらいにしておけ。」
今井先輩が陸の肩を掴むがパンと乾いた音を立ててそれを陸は振り払った。
陸はボロ雑巾のようになった不良と思われる人をドサリと投げ捨てて、別の明らかに戦意を喪失しているであろう不良に殴りかかる。
何があったか俺には全く分からないが尋常ならざるこの状況に、手先が冷えて、全身が小刻みに震えてしまう。
まるで、陸の事を知らないんだという事実を突き付けられているようだ。
「陸、陸やめてくれ。」
俺の哀願のような呟きは、自分自身にも殆ど聞き取れないくらいの音量だったはずだ。
だけど、俺の呟きの直後、陸の相手を殴る動きが止まって、こちらを見た。
最初のコメントを投稿しよう!