第二章 闇に呑まれる 第二話 屍体もらい

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第二章 闇に呑まれる 第二話 屍体もらい

「肝ではござらぬ。お願いしたいのは……胴の方でござる」 「胴!」  高田源之助の白い顔に緊張の色が走った。客人の言わんとする事が判ったのだ。  胴とは、斬首された屍体そのもの。  此の男は屍体を求めにきたのだ。しかも、こんな真夜中に。たった独りで。 「胴も扱っている……と聞いて来たのだが」  男の言葉を耳にしても、源之助はすぐには頷けなかった。ごくりと唾を飲み込む。頭の中で思い浮かべるのは屋敷内の庭に建てられた特別な蔵。  今日の昼に、御様御用を兼ねて一人の罪人が斬首された。その首無しの胴が一体、弟子たちの試しきりになるべく練習台として山田屋敷の蔵に運び込まれていた。  ――御様御用が済んだ屍体をぜひとも譲って欲しい。  といった話が持ち込まれる場合は時々ある。依頼主は、自ら試し斬りをしたい大名家や有力旗本、または人体解剖を行なう蘭学医たちだ。 (しかし、しかしだ。なにゆえ、こんな真夜中に……)  内心、不審に思えてならない。それでも、源之助は表情を崩さない。少し語気を強め、それでも客人の機嫌を損ねないように告げた。 「左様でござるか。然らば、恐縮ではあるが、明朝に改めてお越し下さらぬか」 「明朝?」     
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