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「ああ。疫病神といえども、立派な神であったな。ならば、もっと酒をお供えしてもらわんとイカンなあ」
半ば冗談めいた言葉にも、長太郎は無言を保ったままだった。
(拙いな。今の話を聞かれたか?)
部外者に知られまいとあれだけ警戒していたにもかかわらず、厄介極まる相手に捕まってしまうとは。ついつい依頼状の方に専念してしまっていた事を悔やんでならなかった。
(いつから?)
――聞いていたのか。
長太郎はいぶかしむ。下手に口を開こうものなら、ムジナによって間違いなく付け込まれるだろう。そう思うや、どうにか此の場から退避する算段だけを頭の中で巡らせる。
……が。
遅かった。
抜け目の無いムジナは早速に長太郎の手元にあった文に眼を留めた。「なんだ、それは?」と、さっと取り上げてしまうや、続けざまに仰々しく大声で読み上げたのだ。
此には長太郎も血相を変えた。「返せ」と止めに掛かるも、ムジナは太った身で軽々とかわしてしまう。
「なるほど。なるほどな。カブト割りであるか。そうか、そう来よったか……。こいつはまた面白くなってきおったぞ」
意味深な笑みまで浮かべる。長太郎は頭に血が上ったまま、
「ムジナ殿には、関係の無い事!」
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