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「その時、主の山田浅右衛門と共にお話を伺うでござる」
「それでは困る。今すぐにお願いしたい」
「今直ぐに……でござるか」
「左様」
「されど、胴をご所望されるのは、なにゆえに?」
すると、男は口を固く閉じて理由を語ろうとはしない。
それから源之助がいくら説得しても、客人の男は頑として退こうとはしなかった。そこで、止むに止まれず男を待たせたまま、主の四代目山田浅右衛門吉寛に相談をすることにした。
今もどんちゃん騒ぎをしている弟子たちと異なり、主の吉寛は自室で既に就寝していた。廊下に膝をつき障子戸を挟んで事の経緯を手短に説明する。
しばらくすると、吉寛の声が返ってきた。
「なる程。屍体もらいか」
「はい。吉寛様、如何いたしましょう?」
「沢木何某、ろくに素性も名乗らぬ客人……どこぞの大名家の家臣か? もしくは旗本?」
いくら屍体を譲るといっても、相手は素性のよく分からない者。山田家としてはそう易々と応じるわけにはいかない。決めかねている吉寛に、源之助は言い加えた。
「吉寛様。礼として『伊勢子建長』なる刀を譲る、と客人は申しております」
「『伊勢子建長』? はて?」
「はい。確かにその様に聞きました。ご存知でございますか?」
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