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七月七日――それは天の川に隔てられた織姫と彦星が、年に一度だけ会うことが許される運命の日。
大型ショッピングモールの吹き抜けスペースには、大きな笹の葉が設置され、その葉には色とりどりの短冊が吊るされていた。井川達彦はその巨大な笹の葉の横に立ち、そわそわと落ち着きなく、あちらこちらを眺めていた。
「お兄さん! よかったら短冊に願い事、書きませんか!?」
短冊コーナーで呼びかけをしていた従業員に話しかけられ、達彦は反射的にいいです、と断った。もうお兄さんなんて年ではないし、声をかけてきた彼の方がよっぽど若く、お兄さんらしい。
「パパ!」
達彦はどこからか聞こえた子供の声にドキリとした。彼の視線の先には、笑顔でこちらに駆け寄る男児がいた。達彦はその男児の姿を捉えた瞬間、花を咲かせたようにぱっと明るい表情になった。
「理一っ!」
自分の胸に飛び込んできた理一を両腕で抱き留める。達彦は嬉しさで胸がいっぱいになった。何度、今日という日を待ち侘びたことか。
「パパ! 久しぶり! 元気だった!?」
胸の中で純粋な笑みを浮かべる我が子に、達彦は頬の緩みが抑えられない。
「おぉ! 理一も元気にやってたか?」
「うん! ぼく、元気だよ!」
「ははっ、そりゃよかった!」
理一と手を繋ぐと、三階のレストラン街に向けて、二人並んで歩き出した。二人以外にも、親子連れや家族らしき客が、きゃっきゃとはしゃぎながら歩いている。いつもだったら苛立ちと羨望で顔を歪める達彦だが、今日ばかりは、彼らと変わらない、平和な表情を見せていた。
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