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ノゾミはすっかり都会暮らしに馴染んでいるように思えた。
少しお酒を飲み気分も良くなり、高級店の個室にいることさえ気にならなくなった。
「お兄ちゃん、これ」
おもむろにノゾミが鞄から取り出したのはパンパンに膨らんだ茶封筒である。オレはその中身を直感的に感じ取った。
「どういうつもりだよ?」
「感謝の気持ち。あの時、お兄ちゃんが働いてくれたお陰で、今の私があると思っている。だから、いつか返したと思っていたの……」
「これ、いくらあるんだよ?」
ノゾミは、指を3本立てた。つまり、300万円が入っているのだろう。ノゾミの稼ぎが、オレの金額を優に超えていることは分かっている。しかし、それでも300万円は安い金額ではなかった。
「いいよ。ノゾミが持っていろよ。金はないが、困ってはいないから」
封筒をそのまま妹に突き返した。せめてノゾミだけは、もう田舎の苦しい生活から解放してやりたかった。
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