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「大丈夫か。そこ直射だから、日陰にずれろよ。気分悪くなったら言いなさい」
1、2、3コースは男子。4、5、6コースは女子。
25mを二本ずつ。3コースと4コースのあいだには線がひいてある。男子と女子を隔てる見えない線。
性と性の、あいだの線。
みんなの喪服は水を吸って色が濃くなる。
さかなに飲み込まれる。
水しぶきと水しぶきのすきまに見える顔。顔。あと口。
プールをあがるみんなの股から小さな滝のように流れる水。
影のようについてまわる水。
巨大なさかなの胃袋を、何度も出たり入ったり。
さかなはくたびれてもう鱗は輝かない。
次は50mを一本ずつ。恋がしたい。
男子はだめ。全員ばか。
恋、してるっちゃしてる。防弾少年団。
とくにシュガ。
きれいな目。
長い足。
ラップ、神。
あと白い。
ぜんぶ。
ぜんぶ。
「おい!大丈夫か!」
「担架!」
「いや、運びます!」
「邪魔だ!お前ら戻れ!」
笛の音。
「こっちに集まって!」
浮かんで。
「吐きそうか?」
揺れて。
「我慢すんなって言っただろ」
草。
水泳部顧問、33才独身、アナコンダこと吉井先生に。
奪われた。
生まれてはじめての。
「大丈夫か」
お姫様だっこを。
きれいな海。
じゃなかった空。
「熱中症!」
「救急車呼びます?」
「いやぁ」
「貧血じゃないですか」
平成最後の夏。
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