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 「まあ、だんだんそういうことも減ってきたとは言ってたけどね。蔵の周りをコンクリートで固めるって話だし、さすがにそこを突破したりはしないでしょ」  「だ、だよね! そこまですれば脱走もあきらめ――、って」  冷静な分析にわが意を得たりとうなずこうとして、そのまま固まる。ひくっと喉が変な音を立てた。  本当に久しぶりに帰郷した友人にくつろいでほしくて、今日は私の実家に彼女をお招きしている。リビングから生け垣をはさんで面しているのは、小学校時代の通学路だ。折から降り出した雨の中、ちょうど下校中の女の子が歩いていて、楽しげに揺れるピンクの傘が可愛らしい。  ――その背後を、泥だらけになったものが這っていた。ぼろぼろの風体、無残に濡れてアスファルトに張り付く、長い黒髪と着物は……市松人形、だろうか。  衝撃のあまり声が出なくて、向かい側に座った友人に必死で指さす。彼女は視線を動かして、ほんの一瞬固まって、すぐさま上着を取って立ち上がった。出ていきながらスマホでかけているのは、例の先生の番号か。  「……物理的遮断は意味ないのかもね。外に出たい、って執念の前には」  後に続きながら聞こえた彼女のつぶやきが、やけに重たく響いた。
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