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 小学校からの帰り、運悪く夕立にあった。幸い、出がけに母から押し付けられた折り畳み傘を持っていたので、急いで広げて事なきを得る。  横手には長い白壁の塀と、その向こう側にずいぶん古い蔵がある。いつもの風景をぼんやり眺めつつ、家路をたどっていた私の耳に、ごく小さな物音が届いた。  ――ぽとっ  後ろから、なにかが落ちるような音がした。振り返ると濡れた路面にひとつ、見覚えのないものが転がっている。  木でできた人形だ。星形のてっぺんに頭をつけたような形で、手のひらにちょうど乗るくらいの可愛らしい大きさ。ただずいぶんと古く、元々はっきり描かれていただろう顔の部分もぼんやりとかすれている。  何より不可解だったのは、全体が泥でひどく汚れているということだった。アスファルトの地面のどこにも、土が露出しているところはないのに。  ちょっぴりかわいそうだが、拾って帰るのはさすがに遠慮したい。『ごめんね』と心の中で詫びを入れて、再び自宅に向かって歩を進めた。
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