死神は今日も闇夜に笑う

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「実は私、ある大手会社の社長なのです。それがどういうわけか、今朝から見ず知らずの人に付きまとわれていて。私はあまり、そういう手の嫌がらせは受けたことがなかったので怖くて急いで家に戻りました。そうしたら夫が倒れていたのです。私はすぐに救急車を呼びましたが夫は病院に運ばれたのち昏睡状態に。そうしているうちに私はストーカーの手によってこの湖まで誘い出されていたのです。私は夫がどうなっているか知りたいのです。生きているのか、死んでいるのか。私はそれが気になって不安で仕方ないのです」 死神は女性の話をしばし頭の中で整理していたがやがて言った。 『それはできないな。する義理もないし、興味もない』 死神はほんの少し前に天にあげた魂のことを考えていた。 ダイヤの指輪をはめていた男性だった。 女性が言った。 「どうしても教えてくれないのですか?」 女性はすがるような瞳を死神に向ける。 『無理だ。』 死神は無情に言い放った。 そして、もう一度女性が何か言う前にその場から立ち去った。 三時間後、死神はもう一度湖に訪れた。 女性はまだそこにいた。 『地縛霊か』 死神はつぶやく。 やっかいなものを作ってしまったと死神は思った。 女性は死神に何も言わなかったが、ただすがるように死神を見続けている。 死神は女性に近づいた。 そして、女性のそばにダイヤの指輪を投げ落とし、言った。 『落とし物だ。ご主人もあの世で待ってるぜ』 死神は女性に背を向けると水面へ向かった。 次に振り返ったとき、女性はすでに湖底にはいなかった。 一週間後、死神はある都立病院で男性の魂を切り落とした。 あの世へ向かう男性の魂に向かって死神はダイヤの指輪を見せて言った。 『奥さんのものだ。お揃いの指輪だなんて、人間は粋なことをするんだな。』 その指輪は女性が消えた後の湖底から拾ったものだった。 男性が病院から去った後、鎌を振りかざして死神はつぶやく。 『人間はなんてめんどくさい生き物なのだろうか?これだから、この仕事は面白い。人間の滑稽な姿が間近で観察できるからな』
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