死神は今日も闇夜に笑う

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死神は夜風を切って空を飛んでいた。 急がなければいけない。 今夜の死者は十を超えていた。 死神はこの町の使者だった。 魂を導く使者である。 どういうわけか魂というものは不思議で、鎌ですっぱり切らないと天に上っていかないのだ。 うっかり切り損ねでもしたら途端にその魂は地縛霊になる。 それがまた厄介なものなのだ。 死者のくせして、死神の言うことなど聞きやしない。 そんな地縛霊が死神には我慢ならなかった。 死神は今日、一番のスピードで夜風を切った。 あと十分ほどで人が死ぬ。 死神が目指しているのは、この町で最も深い湖だった。 自殺の名所とも呼ばれているその場所は、死者を扱う死神にとって庭みたいなものだった。 やがて死神はその湖に到着した。 五分前だ。 しかし、その五分前到着が今夜、死神を厄介事に巻き込むことになったのだ。 死神は湖の中に足を踏み入れた。 そうして死神は低く笑う。 死神は湖の底に落ち着くと死者が落ちてくるのを待った。 五分後、唐突に一人の若い女性が落ちてきた。 水面が波打った。 死神は女性の背中からはみ出している、半透明の魂の根本を狙って鎌をふるった。 だが、死神が鎌をふった途端、魂が女性の体に引っ込んだ。 鎌は水を掻いて湖底に突き刺さった。 死神は驚いたように女性を見つめた。 そして女性がまだ生きていることに気づいた。 時計を見るとまだ死亡時刻の一分前だった。 死神は大抵死亡時刻の五分ほどあとに来て、死者の体の上でふらふら揺れている魂を切り離していた。 しかし、今日という日は何かの手違いで五分前に到着してしまったのだ。 死神は女性の体を見ながらどうしようかと思案した。 さっきので魂が引っ込んでしまい、女性が息絶えた今も一向に出てこないのだ。 そうしているうちに死神は震える声を聞いた。 「あなたは?」 死神が驚いてみると、死んだ女性の目が真っ直ぐ自分を見つめていることに気づいた。 『死神だ。あなたの魂をさらいに来た』 死神はあくまで礼儀正しく自己紹介をした。 ただ、頭の中では次の仕事のことを考えていた。 「私を助けてください」 女性がもう一度震える声でいった。 『何が望みだ?』 死神は女性を睨み付けた。 女性は死神の予想に反して長々と語り始めた。
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