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ー10分後ー
はい。完了~。
俺は異動願いを手早く作成すると、机の引き出しにしまった。
ブルブルブルッ
と、突然頭の輪っかが振動を始めた。
下界からの強い想いに反応したのだ。
ええ~。今家なんですけど~。
しかし無視するわけにもいかない。
なんだよ~。
と言いながら、想いの主に会いに行くことにした。
―――――――――――――――――――――――――――
とうっ。
憑依完了~。
なんだか随分汚ならしいロボットの人形に憑依したらしい。
ところどころ焼け焦げた後がある。
こういうのブリキのおもちゃっていうんだっけ?
作られて随分経っているようにみえる。
四角い胴体に頭と手足を付けただけの様な簡素な造りだ。
「今日は何が食べたい?勝」
うおっ。いきなり話しかけられてビックリした!
見るとお婆さんがベッドに座っている。
頭は真っ白で、鼻や、袖の隙間からチューブみたいな物がみえる。
病院か?
個室らしくお婆さんの他には誰もいない。
「寝る前には歯を磨くんだよ。勝」
はいはい。てか、人形ってぬいぐるみか?
だとしたら守備範囲広すぎじゃないかぁ。
一旦憑依したからには、その想いを最後まで見届ける義務が発生する。
あぁ。めんどくせぇ~。
「危ないから手を繋ごうね。勝」
―――――――――――――――――――――――――――――
それからお婆さんは毎日毎日話しかけてくる。
実にうっとうしい。
どうやら俺の事を「勝」という人物だと思っているらしい。
人間の間で流行している「痴呆症」ってやつだろう。
だから俺は人形なの。
動きもしないし、返事もしないよ。
天界の規則の1つで、物が動いたり喋ったり、奇跡を起こす事は厳しく禁止されている。
そりゃそーだ。そんな事したら人間達は大パニックになるだろう。
「最近返事をしてくれないねぇ。勝」
「喉が渇いたねぇ。勝」
少しお婆さんの記憶を辿ってみるか。
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