通り雨

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 まだ梅雨の只中だというのに、外は目を開けるのも辛いくらいの日差しである。  クーラーが壊れている所為で、俺の部屋の中は蒸し風呂状態だった。  開け放った窓から入る生暖かい風を、気は心で扇風機がかき混ぜていた。  だが、俺の悪友は、それすらも癪に障るほど暑さに参っているらしい。折りたたみテーブルに広げたノートやら教科書には目もくれずに、先から悪態ばかり垂れている。 「あっちいんだよ、チキショー。そのがーがー言う音を止めてみろってんだ」  一心不乱に首を振っている扇風機を、連日の部活で真っ黒に日焼けした腕で捕まえて、お説教を試みている。扇風機はそれに抵抗するようにぎこちない音を立てて、自分の職務を全うしていた。 「なにおう、俺に逆らおうってのか?」 「…七瀬(ななせ)。止めようか、扇風機?」  俺の暑さ対策最後の砦。罪のない扇風機を壊されては堪らない。 「止める? 俺を殺す気か? そうなのか、(たすく)?」  扇風機を抱いて、七瀬が捨て犬のような目を向けた。 「もういいよ、勝手にして」  俺は自分を犠牲にして、扇風機に首振りをやめさせた。彼はもう、七瀬の奴隷だ。健気に七瀬だけに風を送っている。 「なんだよ、匡。暑くないのか、体感温度変なんじゃないのか」  足の裏を扇風機にくっつけて、奴は首を傾げている。大人になれ、匡。俺は拳をぎゅっと握って自分をなだめた。
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