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灰が舞っている。吸ったら体に害だと教えてくる黒煙の辺りに舞うと、季節はずれな雪みたいだ。焼け焦げたトースターのような臭いに顔をしかめながらも、灰を眺めていた。
黒煙の下は、もちろん炎で、今も担当の人が、薪と同じように扱われているモノを投げ込む。それを一つ、二つ、三つと、続けてくべるごとに炎は勢いを増し、黒煙が空に広がっていく。黒煙は体に悪そうで、出来れば風向きが変われば、オレの座っているところまで流れてきそうだけど、出来るだけ、眺めていたかった。それが弔いになる気がする。
「シキヤ、あそこにあるので最後だ」
二つ年上の友人、アレックスが、近くに寄ってきてオレに声をかけてきた。オレは、マスクを顎にずらしてから、「わかった」と一言だけ返す。
「端末を開いてくれ。これからについて話したい」
操作の邪魔になる医療用手袋を脱ぎ、近くの炎に放り込む。夏の暑さと炎の熱で蒸れた手が、外気に少し触れて気分がよかった。
オレは、白衣のポケットに入れていた長方形の箱……端末の電源ボタンを押す。スクリーンが表示され、アレックスの端末から、強制的にデータを受信させられていると通知があった。データの受信が終わり、現れたアイコンをタップすると地図が表示される。地図には、自分たちの現在地の点と、もう一つ、遠い場所に点が置いてあった。
「川の汚染については聞いているな? 距離的に、この上流の村も影響がありそうなんだ」
「ここの村を焼いても意味なかったか……。ほかには村は?」
「村はないな。廃ダムがあるくらいだ」
オレは、端末の電源を切り、もう一度、炎を眺め始める。丁度、最後の薪、感染した村人の遺体が投げ込まれた。
いくぞ、とアレックスに声をかけられ、オレは立ち上がり、相変わらず似合わないハットを被り直している背中について行った。
オレとアレックス、それとチームの人たちは、それぞれの車両に乗り込む。二台の軍用輸送車での移動だ。
アレックスは軍の特殊医療部隊のリーダーで、オレはそのコネで付き添わせてもらっていた。異常な病は、彼らの専門になる。科学が半端に進歩した現在、未知の病は増えつつあった。だから、アレックスたちの特殊医療部隊のような存在が必要だ。
今回も、病を撲滅させろという任務だった。病と言うのもそこまで流行っているモノではないが、症状が異常な為、アレックスたちに任されたのだ。
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