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男はこちらに気づくと、ゆっくりと近づいて来た。
地面に広がっていた赤は、その男の行動に合わせて、俺の方に伸び始める。
「動くな!」
立花が銃口を男に向けながらそう叫ぶと、男はピタリと止まり、俺の意識も強制的に現実に引き戻される。
そうだ、ココは事件現場じゃないか。
瞬間、現在の状況を思い出し、すぐさま銃を構えて男に向けた。
忘れるな、今は仕事中だ。
少しして、漸く捜査一課の面々が到着し、そのうちの数名が銃を構え共に周囲を囲み、残りは市民の誘導為、立ち入り禁止区域を作り始める。
これで、ここに一般人が入ってくる事はない。
さて、やっと行動がし易くなった。
「武器を捨てるんだ!」
気を取り直して叫ぶと、男は奇妙な物を見る目をこちらに向けながら首を傾げる。
「何で?」
「……は?」
男が初めて発した言葉は、あまりにも緊張感がなかった。
周囲に混乱が生まれる。
コイツ、もしやこの状況が全く理解できてないのだろうか。
そんな異様な空気間の中、男は此方の質問の答えを待つ事なく、又ゆっくりと歩き始めた。
「止まるんだ!」
「だから、何で?」
俺の言葉に男は再度こちらに疑問を投げかけてくる。
表情から動揺は全く見られない。
やはり、コレは普通の心理状況ではあり得ない。
「ふざけないで!」
立花はこの状況に不安や怒りを感じたのか、男に向かい、そう叫んだ。
だが「違う」
立花の言葉を否定すると、立花は驚いた表情を俺に向けてくる。
「……違うんだよ立花、彼は本当に理解してないから聞いてるんだ」
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