第1話 真顔の連続殺人犯

6/21
152人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
男はこちらに気づくと、ゆっくりと近づいて来た。 地面に広がっていた赤は、その男の行動に合わせて、俺の方に伸び始める。 「動くな!」 立花が銃口を男に向けながらそう叫ぶと、男はピタリと止まり、俺の意識も強制的に現実に引き戻される。 そうだ、ココは事件現場じゃないか。 瞬間、現在の状況を思い出し、すぐさま銃を構えて男に向けた。 忘れるな、今は仕事中だ。 少しして、漸く捜査一課の面々が到着し、そのうちの数名が銃を構え共に周囲を囲み、残りは市民の誘導為、立ち入り禁止区域を作り始める。 これで、ここに一般人が入ってくる事はない。 さて、やっと行動がし易くなった。 「武器を捨てるんだ!」 気を取り直して叫ぶと、男は奇妙な物を見る目をこちらに向けながら首を傾げる。 「何で?」 「……は?」 男が初めて発した言葉は、あまりにも緊張感がなかった。 周囲に混乱が生まれる。 コイツ、もしやこの状況が全く理解できてないのだろうか。 そんな異様な空気間の中、男は此方の質問の答えを待つ事なく、又ゆっくりと歩き始めた。 「止まるんだ!」 「だから、何で?」 俺の言葉に男は再度こちらに疑問を投げかけてくる。 表情から動揺は全く見られない。 やはり、コレは普通の心理状況ではあり得ない。 「ふざけないで!」 立花はこの状況に不安や怒りを感じたのか、男に向かい、そう叫んだ。 だが「違う」 立花の言葉を否定すると、立花は驚いた表情を俺に向けてくる。 「……違うんだよ立花、彼は本当に理解してないから聞いてるんだ」
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!