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彼は普通の思考回路をそもそも持って居ない。
「どういう事ですか?」
そんな俺の代弁に、立花は怪訝な目で見て来るが、コレを説明するのはどうも難しいな。
「そのまんまの意味だよ……それより、なあ、お前は何故人を殺したんだ?」
立花をよそに早速目の前の男に問いかけると、男はそれに答える事なくふらふらと近づいて来る。
意思の疎通が出来ると思ったのだが、これは少し厄介だ。
「理由ぐらいあるだろ?」
「理由……ないよ、目の前に人が居たから刺しただけ」
「そうか」
このままでは埒が明かない。
「答える気がないなら、答えざるを得ない状況を作ってやるよ」
俺はそういうのと同時に銃を捨て、男に向かって一気に間合いを詰めた。
すると先程まで飄々としていた男の顔は途端に驚きに変わり、条件反射の如く刃物をこちらに向けた後、それでも向かって来る俺から距離を取る為バックステップをする。
だがそれを予測し、更に間合いを詰めながら刃物を避けた。
男の腹はその時一時的にガラ空きになり、刃物を持つ伸ばした腕を掴むと、もう片手で胸ぐらを掴む。
体を拗らせ、今度は重心を切り替え足に力を入れると、そのまま男に背を向けた。
そして、今ある力で一気に持ち上げ、背負い投げを決める。
ナイフは宙を舞い、男はコンクリートに打ち付けられ、辺りに鈍い音が響く。
俺は直ぐにその男の動きを抑えるように上から体重を乗せ、拘束し、自身の呼吸を整えた。
「午前11時、銃刀法違反及び傷害罪現行犯の為逮捕する」
そういいながら男に手錠を掛けると、男は脳の処理が追いつかないのか、唖然とした表情のまま俺を眺めていた。
そして、その後直ぐに立花含めた他の捜査一課も周辺を囲み、男はそんな状況下の中、不思議そうに周囲を見渡しながらも大人しく立ち上がり、連行されて行く。
やけに大人しいな。
それに、移送中のパトカーの中からも、常に男は怒りや不安と全く無縁の何ともいえない視線を俺に向け続けて来た事が、妙に気になった。
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