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あれは一体なんだったんだ。
まるで人間ではない何かと、遭遇してしまったかのような感覚に襲われる。
「お疲れ様です!」
そんな謎の不安感に苛まれている最中、立花が俺に近づいて来ると、嬉しそうに笑みを浮かべながら敬礼して来た。
「先程の行動、感服しました。
刃物に物怖じしない姿勢、そしてスムーズな背負い投げ、全てが完璧でまるで気品ある社交ダンスを見せられている気分でしたよ!」
「気持ち悪い表現をするなよ。
それに、アレはたまたま上手くいっただけだ」
全く、この立花という女はキャリア組なのかと目を疑いたくなる程の忠犬っぷりだな。
向上心が、まるで感じられない。
「偶々なもんか、又お前の手柄だな」
どこから聞いていたのか、この会話に自然と入り込み、此方に歩み寄って来たのは、全て平均体型の吉岡 驍係長。
あまりにも存在感が薄く、空気のような男であるが、これでも我らが10係の警部でもある。
「手柄……」
その言葉にふと視線を感じ、その視線の先を確認すると、署で小言を口にしていた同僚と目が合った。
同僚は不服な表情を浮かべ、俺からその視線を逸らす。
どうせ、いつもの僻みだろう。
「別に、手柄欲しくて頑張った訳では有りません。
偶々犯人との距離が一番近い場所に自分が居ただけです」
「あぁ、分かっているさ、君は本当に凄い」
吉岡係長はそう答えると、白髪混じりの頭を掻きながら笑いかけて来た。
無理やり口角を引き上げた、胡散臭い笑み。
吉岡係長は同じ警部という立場で有るが叩き上げ組の為、俺と年が10近く違う。
吉田係長からすれば、そんな漸く手に入れた係長の座をパッと出の俺の存在で危うまれているのだ。
内心、穏やかではないだろう。
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