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「では、我々は署に向かいます。立花、行くぞ」
周囲の目線は、逮捕した俺の栄誉を称えるというよりは、妬みや僻みがの方が多く、俺は係長に軽く会釈をすると直ぐに車に戻り、助手席へと腰を下ろした。
全く、気分が悪い。
立花はそんな俺に少し戸惑いつつも、運転席に乗り込む。
「あれ、帰りは運転しないんですか?」
「運転は元々お前の担当だろ」
「そうですけど、てっきり運転が好きなんだと」
「現場に向かうと時にお前の速度じゃ遅いからだ」
「すみません……所で野神警部、今怒ってます?」
「俺が?」
「今回の事件の出動時は目をギラつかせていたのに、今は気落ちしているて言うか、何かにイラついている様に感じます」
「俺はこう見えてデリケートなんだよ、取り敢えず帰るぞ」
「はい」
立花の疑問に答える事なく指示を出すと、車はゆっくりと走行し始めた。
俺が腹を立てている要因、それは周囲からの冷たい眼差しではなく、あの被疑者だ。
何を考えているのか分からない目つき。
殺人に対する罪悪感の欠如。
何処となく俺と似ているようで、何かが確実に違う。
その違うという部分が全く理解出来ないという事実が、俺の感情を逆撫でした。
それに、問題はそれだけではない。
公衆の面前で大量の殺人を行った場合、死罪が一般的だが、彼の場合それに当てはまらない可能性があるのだ。
「あの人殺し、多分精神科にブチ込められて長生きするかもな」
「……刑事責任能力ですか」
「あぁ、アレは怪しい」
「確かに、ないと無罪の可能性が出てきますよね」
刑事責任能力の欠如。
そう判断された場合、医療観察制度が適用される。
つまり、罪の意識や人としての一般常識が存在しないお子ちゃまは裁けない為、精神科で数年から数十年のセラピーという名な勉強会を受けて貰い、しかもその後釈放されてしまうのだ。
今回の彼の言動を見る限り、彼に精神疾患があると判断されるのは時間の問題だろう。
この国は何処までも犯罪者に優しすぎる。
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