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一先ず中を覗き込むと、6畳程の狭い空間にあるテーブルの向かい側にいた佐々木が、両サイドに居る警官に動きを抑えされ、手錠をはめ直されているところに居合わせた。
佐々木は暴れているわりに声を全く出さないので、何だか変な空気だ。
それから少しすると佐々木は急に大人しくなり、手錠をつけられたまま椅子に腰掛け、退屈げに壁を見つめ始める。
こうして漸く警官のひとりはその場を離れ、もうひとりは佐々木の後ろに立った。
また暴れない為の監視だろう。
だが、基本取り調べはふたり体制で行うものでもある為、この空間に佐々木を含めて4人となると、かなり狭いな。
「我々は大丈夫なんで、後は任せて下さい」
「ですが、先程……」
「3人も警察が取調室に居たら圧迫感で相手側が萎縮してしまいます。
脅迫紛いな取り調べは違法ですよ」
笑顔で答えると、制服警官は少しバツの悪そうな顔をしながらも、その場を離れた。
単純だな。
俺は目の前の椅子に座ると、斜め後ろに立花が立つ。
「さて、次は俺と話そうじゃないか」
そういうと、佐々木は何も答えずに俺の顔をゆっくりと見つめ始め、そのまま少しづつ視線を動かし始めた。
まるで此方が何か観察されている気分で不思議と緊張が走る。
これは先程取り調べをしていた刑事も、相当居心地が悪かっただろう。
「……どうした?」
沈黙に耐え切れずそう問いかけると、佐々木は漸く俺の顔に視線戻し、ゆっくりと口を開く。
「良い匂いがするね」
そういうと突然立ち上がり、顔を突きし、俺の匂いを獣の様に嗅ぎ始めた。
咄嗟に立花が前のめりになり佐々木を止めようとしたが、俺は寧ろそれを手を上げて止める。
そのまま、下手に動かずその行動終わるのを静かに待つ。
今、彼を刺激してはならない。
それから少しすると、佐々木は椅子に腰掛け、再度ゆっくりと口を開いた。
「何人殺したの?」
「……は?」
全く予想だにしてなかった質問。
それが今、佐々木の口から発せられている。
こいつは今、何といった。
あり得ない。
何故俺が、人を殺した事を前提に質問している。
言葉は鈍器のように俺の頭に強い衝撃を与え、瞬間的に心臓の鼓動を早まる。
だが落ち着け、ここは落ち着く場所だ。
「それは寧ろ、こっちが聞きたいね」
「ねぇ、お兄さんは何人殺したの?」
なるべく冷静に選んだ俺の言葉は、佐々木には届かず、再度答えを催促された。
腹が立つ。
「悪いが、俺は誰も殺してない。寧ろ殺人を犯したのは佐々木、君だろ?」
「お兄さんからは、こびりついた血の匂いがするんだ」
「そりゃそうだ、さっき血まみれのお前を放り投げたんだからな」
何故だ、何故今俺は追い込まれている。
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