第1話 真顔の連続殺人犯

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「さて、俺から聞きたいのは以上だ、これから専門家による精神鑑定に移る」 「ねぇ、僕の質問には答えてくれないの?」 「では、失礼するよ」 これ以上佐々木の相手をするとまた面倒な事になると感じ、そのまま取調室を出ると、立花は不満げな表情のまま俺の横を並んで歩き始めた。 「あれだけの質問でいいんですか?」 「粗方の質問は11係がしているだろ」 本当ならもう少し取り調べを続けるべきだろうが、あのままでは話しが進む気が全くしない。 そうだ、今はまだ、探る時ではない。 以降は報告書制作や他の雑務へと移り、その日は喉の奥に突っかかる違和感を残したまま終わりを迎えた。 そして、佐々木の引き起こした大量殺人から2日後の昼。 「野神警部、精神鑑定師の朝霧(あさぎり)さんが話がある為研究室に来るよう伝言がありました」 出勤早々、受付の女性警察官から聞いた突如呼び出し。 朝霧は、佐々木を担当している精神科医だ。 彼に何かしらの変化があったのだろうか。 一先ず立花が出社した際、俺の代わりに資料整理をする事を伝言に残し、仕方なくひとり朝霧の仕事場を訪ねることにした。 警察病院は我々の拠点となるこの警視庁と目と鼻の先にあるが、中に入ると通常と変わりない病院の風景が広がる。 一般の受け入れも行っているのだから当たり前だが、今回目的としている場所の事務所は、そんな病院と連結する別に存在する棟にあった。 当たり前だ、危険人物を同じ場所で診るわけがない。 関係者用の扉の前にあるインターフォンを押し、スピーカーで要件を伝え、カメラに警察手帳を見せると扉のロックが解除される。 そのまま連絡通路を渡り、エレベーターに乗り、廊下を歩き、こうして漸く朝霧と表札が出された扉に辿り着いた。 扉を叩くと中から「どうぞ」と声が聞こえ、中に足を踏み入れる。 「失礼します」 汚い。 そう思うほどの資料の山に、つい溜息が出そうになり、慌てて息を飲む。 コレでは失礼に当たる。 それに、資料が多過ぎて床にまで積み上げられている状況ってだけだ、別に散らかっているわけではない。 ただ、地震が起きたら大惨事にはなりそうだな。 「いらっしゃい」 そういって来たのは奥の机で、作業をしているひとりの女性だった。 ふんわりパーマがかったダークブラウンの髪を後ろに束ね、理想的モデル体系を包むような真っ白な白衣を着た鑑定師。 「警視庁捜査一課野神 衛(のがみ まもる)です」 俺の挨拶にその女性は資料を閉じて、かけていた眼鏡を外し、此方に小さく微笑みかけてきた。 「初めまして、私はこの病院の精神鑑定師、朝霧 和泉(あさぎり いずみ)です。突然呼び出してゴメンなさいね」 「いえ、お気にせず」 「早速なんだけど、今回の患者、佐々木 荵、彼と取り調べの時、会話をしたそうね」 「えぇ、しましたけど?」
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