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殺人が犯罪である事は誰もが理解している事だろう。
その殺人が何故罪に問われるか、それは殺人を無差別に認めてしまえば、国が崩壊の一途に向かう為だ。
世紀末となれば、生き残る確率は限りなく低くなり、結果、人類は地球上から消える。
だが、それを理由にどれだけ強く禁じようと、殺人鬼は生まれ、こちらの都合など御構いなしに殺す。
それに対抗すべく生まれたのが死刑制度だ。
人類の妨げになる存在は、剪定せねば、又規模が膨れ上がり、秩序が乱れる。
何事にも、理由や加減がいるのだよ。
「んー!」
「んー?」
目の前で唸り声を上げる薄汚れた男に気付き、そちらに目を向ける。
男は地面に固定された木製の椅子に座らせられ、手足がその椅子に縛りつけられていた。
いや、この場合は-縛り付けた-の方が正しいだろう。
先程その口に布を押し込み、吐き出される事を防ぐ為にガムテープでキツく巻いた為か、話す事が出来ずにただ無様に唸っている。
周囲はビニールで覆われ、男から流れ落ちた汗はビニールのシワを伝い俺の靴に触れ、そこでじんわりと広がった。
この男は空き巣に入った際、偶然帰宅した老婆と鉢合わせしてしまい、動転して口封じの為老婆を殺害した犯罪者。
だがこの事件は悲しくも証拠不十分となり、男は釈放されてしまった。
そして、その後も勿論犯人は見つかる事なく、結果お蔵入りとなったのだ。
有り勝ちだが、有ってはならない展開に、この男は救われた。
「何か喋りたい? 訴えたい? それとも聞きたい事が有るのかな?」
煽るようにそう問いかけ、男の前髪を掴み、無理やり引き上げる。
男は唸り声を上げながら、涙目でこちらに縋り付くように見つめてきた。
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