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今度は、都合良く無視か。
話しが噛み合わないこの状況に苛立ち始めた時、俺の背後にある扉が開く。
振り返るとそこには朝霧が立っていた。
「野神警部、ちょっといいかしら」
まだ話し終わってないのだが、何かあったのだろうか。
いわれるがままに部屋から出て扉を閉めると、朝霧は腕を組みながら此方を向く。
「彼はどうやら貴方が人殺しの同族であると誤解をしている様ね」
「そうですね、会話ができるのも多分その誤解が原因でしょう」
「なら、話を合わせてくれないかしら」
「……今何と?」
予想外の提案に、脳の処理速度が追いつかず、表情が固まる。
何の冗談だ、俺が人殺しのふりをするなど全く笑えない。
「……つまりは警察官が人殺しのふりをしろと言うのですか?」
「そうよ」
「冗談でしょ、そんな発言をして何らかの事件で、その言葉を証言として使われ、濡れ衣を着せられたらどうするんですか」
「ココでの発言は極力外部に漏らさないわ。
それでも不安なら契約書を用意するから後でサインと拇印をお願いできるかしら?」
迷いのない言葉、有無を云わせぬ勢い、コレは完全に俺に人殺しの役をさせる気だ。
だがココで下手に拒み、空気を悪くしてしまえばこの先の仕事に支障が出かねない。
だからといって、この話しに乗って犯罪者のふりをするという事は、俺自身も同時に観察されている事に繋がる。
日常に溶け込んでいる現在、これはどっちもどっちだ。
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