プロローグ

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脂汗が身体中から滝の様に滲み出し、体は寒むさを耐え凌ごうしているかのごとく小刻みに震えている。 「寒いのかな? 暑いのかな? 君が何を訴えたいのか、俺にはよく分からないなぁ」 笑顔でそう答えて髪から手を離すと、男の頭はそのまま力なく項垂れた。 俺はそのままゴム手袋を装着し、タバコを胸ポケットから取り出すと、マウスピースをつけた後にオイルライターで火をつける。 一口吸えば、口の中には苦味と、メンソールの涼しさが広がり、意識がゆっくりと覚醒していく。 そしてタバコを口に咥えたまま、男の前髪を再度掴むと、もう片方の手でタバコを手に取り、そのまま男の右目に火種を押し付けた。 突如として唸り声は激しくなり、男の手足は脈打つ様に跳ね上がり、震え、片目から涙を流す。 「痛い? 痛いよねぇ、きっと、死ぬ程辛いんだろうって理解出来るからさ、俺、鳥肌が立って来ちゃった」 こんなの痛いに決まっている。 熱された異物が目に押し込められ、眼球が焼かれているのだ。 男の痛覚に自然と共感し、声を震わせると、今度はもう片方の目玉を指で撫でる。 汚れたこの男には勿体ないほど、この瞳は美しい。 俺は暴れる男の髪を更に強く掴み、動きを固定すること、耳元に唇を近づけた。 「しー、大丈夫、落ち着いて、動かないで」 なだめる様に優しく囁き、大人しくなるのを待った後、残りの目玉に指を滑らせ、奥まで差し込むと、すくう様に一気に引き抜いた。 すると男は先程より更に唸り、バクが検出された精密機器であるかの如く激しく全身を震わせ、何かを仕切に叫び続ける。 苦痛、恐怖、憎悪、様々な感情が男から読み取れ、俺の口角は自然と上がった。 「あぁ……痛い、痛い、苦しいねぇ」 掴んでいた髪を放し、目玉は用意していたゴミ箱の中に投げ捨て、近くの椅子に腰掛けると静かになるのをひたすら待つ。 それから男も冷静さを取り戻たのか、その場は(ようや)く静かになった。 何もしない空白の時間、それすらもこの男には恐怖となるのだろう、だからこそあえて静かに立ち上がると、ポケットに入っていた手帳がするりと床に落下した。 物が落ちる音、それだけで男はピクリと肩を震わせる。 「あぁ、驚かせてしまったね」 そう答えながら、俺は落ちた手帳に手を伸ばした。 落ちた衝撃で開かれた手帳には顔写真の他、警部:野神 衛(のがみ まもる)と書かれており、俺はそれを拾うとポケットに戻す。 「さて、見えないと、次何をされるか分からなくて、様々な想像が膨らむよね。 それでさ、今何考えているんだい?」 気を取り直してそう質問するが、勿論男は答える事など出来ない。
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