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都内にそびえ立つ警視庁。
そこは国家の治安を維持し、この社会の安全を守る重要な任務を任された基幹となる場所でもあり、この俺の職場でもある場所。
そこに紺色のスーツと黒の革靴に身を包んだ俺は足を踏み入れると、巡廻予定らしき若い制服警察官が立ち止まり、こちらに礼儀正しく挨拶を交わしてきた。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう」
いつもと変わらぬ笑顔で答え、受付の女性には手を振り、そのまま奥のエレベーターへと向かう。
足元に広々と敷き詰められたタイルは鈍く輝き、エレベーターの扉は俺の体を綺麗に写し、指紋1つ見当たらない。
入り口の植物はハリがあり、待合用の皮のベンチすらもしっかりツヤがある。
何ていい朝なんだ。
俺の脳が視界をジャックし、単に周囲を美化させている可能性もあるが、そう感じるほどまでに今日は清々しく晴れやかな心情だった。
エレベーターの扉が開き、乗り込むと、少し離れた場所からこちらに近づいてくる足音が聞こえ、エレベーターの外をのぞき込む。
「待ってください!」
その声に、エレベーターの開くボタンを押して招き入れると、パンツスーツの細身の女性が乗り込んで来た。
女性は「間に合った」と溜め息まじりに呟き、呼吸を整えている。
扉は閉まる。
背丈が165センチ位だろうか、セミロングのストレートヘアーでかわいらしい顔つきの貧乳。
全く、相変わらず忙しない女だ。
「えー、駆け込み乗車はご遠慮下さい」
淡々とした口調のままそう声をかけると、女性は俺の顔を見て、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「ココは電車じゃないですよ、野神警部」
「相変わらずの反応だな、立花警部補は」
この忙しない女性警察官の名は、立花 正美警部補。
俺と同じくキャリア組でありながらもここに赴任した、俺の相方でもある。
普通は、キャリア同士がコンビを組む事なんてあまりないのだがな。
「そういう野神警部は、今日はいつもよりご機嫌ですね、何かあったんですか?」
「やっぱり判るか、いやぁ、人の為に働くって本当に幸せだねぇ」
「全く、相変わらずの仕事馬鹿ですね」
俺の曖昧な返答に立花は気にした様子もなく、エレベーターはそのまま目的の階へと止まり、扉が開く。
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