第1話 真顔の連続殺人犯

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エレベーターを降り、刑事課に辿り着くと、50近い机が向かい合わせに並べられ、その机の半数には資料が山積みになっていた。 電話対応中の者、資料をまとめる者、パソコンを開き現在の状況を確認する者など、皆が各々にデスクワークで勤しんでいたが、空席が目立つ。 既に現場に直行しているのだろう。 とはいえ、コレは我々にとっては日常の光景であり、緊急性があるものではない。 そもそも、そう毎日大きな事件が有っては国は終わるな。 という事で、早速こんな平和な日には欠かせない俺の恒例挨拶を始めようじゃないか。 まずはかわいい女性警察官。 「おはよう、お、君前髪切った? 似合ってるよ」 「ありがとうございます! 野神警部補も今日は何だかご機嫌ですね!」 「あ、わかる?」 次に奥の席に座る、この警視庁刑事部捜査第一課の 織田 優作(おだ ゆうさく)課長。 「お、課長はタバコ変えましたよね、それ新作でよね?」 「よく気づいたな、良かったら後で一緒に一服するか?」 「是非!」 この様に、常に様々な人に声をかけるのが俺の日課だ。 人の観察は実に楽しい。 髪型やタバコの銘柄1つの変化で、その日の彼らの感情が手にとる様に解る。 袖のシミ、体臭、声の微かな変化、それがひとりの人生を彩り、鏡の様に写し、愛おしくも思えた。 「又、色んな奴にご機嫌とりしてるぜアイツ。 警部の癖に、俺たちと同じく常に現場組。 目障りなんだよな……出世したいなら早くどっかの係の係長や田舎の課長でもやってろよ」 そして、この様に俺のコミュニケーションを快く思わない人種も存在する。 此方にあえて聞こえる小声で挑発するとは、脇役のする事は小さいな。
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