第1章 艷めく吐息は火薬の香り

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駆けつけた先は崩落というほどの状況ではなかった。ただ、老朽化した瓦礫が残した埃がもうもうと舞い、その中から『いててててて……』と女性の声、細い足首と靴が見えている。一先ずは無事そうなので一同は胸をなでおろした。 『大丈夫ですかにょ?』 『あ、はい。とりあえずは無事でっす。あいたたた……』 ボッコの手を借り、立ち上がったのはラフな山岳服に身を包んだ女の子だった。腰に携えられた金具や短刀の数々が鈍く光っている。 『ほほう、どこかケガしたかね? どれどれ、診せてごらんなさい。胸ですか、お尻ですか、それとも秘密に溢れた花園ですか?』 『ほーーぅ……』 一切、下心を隠そうとしないクェンの背後で『ボキボキぼギィっ』とアスナの拳が鳴る。鳴る。鳴る。 『……この子のケガの具合を診る前に、あたしの拳で地獄見せたげーよか? クェン?』 その表情からは『死ぬか? オマエ?』としか読み取れない。 『い……いえ、遠慮しておきます』 遺跡の床に土下座して平謝るクェン。 哀しいかな、もはや日常の風景である。 『すいませんです。とんだ醜態を晒してしまいました。お恥ずかしい限りです。私はチコット、チコット=マーカート。チコと呼んでくださいね』 ペコリ。 そう言ってチコはその形の良いお尻を叩いて埃を払う。そして、その際に後ろポケットより紙束を探り当ててホッとひと息ついた。 チコは慣れた手つきでそれを広げる。 『よかった~、破れてない破れてない。』 『ん? それ、大事な物?』 ひょいっ、とアスナが横から顔を割り入れる。どうやらこの地下遺跡の地図らしい。紙の質感こそ違うもののアスナはこの地図に見覚えがあった。 『あれ? この地図ってクェンの買った地図にそっくりじゃん?』 『え?』 『どれ、……ありゃ。ホントだ、ずいぶん似てんな。そっくりだわ』 クェンが自分の胸元から地図を取り出して見比べる。確かに紙の変色や状態に微差はあるものの、同じ地図であることは疑いようもない。 一方で、チコの動揺は尋常ではなかった。 『え?……え? ええぇえぇぇぇっ!? そんな……っ、そんなハズはっ!』 ばっ! チコが奪うようにクェンの地図を手に取り、自分の地図と見比べる。その目の動きはせわしなく左右に動き、やがて猫のようにまん丸くなって止まった。 image=510681609.jpg
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