第1章 艷めく吐息は火薬の香り

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『……一緒、だ……』 『ね? よく似てるっしょ♪』 笑ってチコの背中を叩こうとしたアスナだったが、その背中が尋常でなく震えているのが分かった。 『一緒だ。一緒だよ……爺ちゃんの地図、そんな…………そんな……』 わなわなと震える指先、抑えきれない感情がそこに発露している。何かマズい、と感じたアスナが地図を奪い返そうとしたが、既に遅かった。 瞬間。 びりいいいいぃぃぃぃっっ、びりっびりり、びりりりっっ クェンの地図が無惨にも引き破られる。あっ!と言う間もなく紙片と化した地図をチコはすかさず自らのカンテラの炎にくべた。 『あーーーっ! 金貨さんじゅうぅぅぅぅうっ!』 『言ってる場合っ!? ダメっ!見失うしっ』 羊皮紙の焼ける匂い。そして激しく煙が立ち込める。チコは呆気にとられる3人に一瞥もなく遺跡の奥の闇へと走り去った。 ────速い! 『追うよっ、クェン、ボッコっ!』 駆け出すアスナ、しかし男2人が着いてこない。 何をしてるのかと肩越しに覗き込むとボッコが『すぴよ。すぴよ』と安らかな眠りに落ちていた。 『…………くそ、ダメだ。会話に参加できなかったせいで、ボッコがあっちゅー間に眠りに落ちとる...』 『だーーーっっ!肝心な時に役に立たねえしっっ、この眠り屋!もーーーっっ』 見ればクェンにもたれかかるボッコの口元には溢れんばかりのヨダレ。誰がどう見ても分かりやすく眠っているのが分かる。 『……むにゃむ、にょ~~……zzz』 邪気の無い眠り顔、これが彼にかけられた『呪い』に寄るものだとは到底思えはしない。 『眠り屋』───かつて『眠りの魔王 シェラソド』によって呪われた伝説のゼト一族が生業としている職業である。 比類の無い身体能力に加え、夢を介した予知能力、さらには不老不死とはいかないが強力な長命を発揮する。……が、代わりに突発的な就眠期による強烈な『昼寝』を強いられる。 彼らゼト一族の悲願は『遺産』の力により、この『呪い』を解くこと。ボッコ自身の旅の目的も、またこれに相違ない。そして──── 『……むにゃ、……変態魔剣士とすぐキレる舞闘家、ワガママいっぱいな竜属のメンドーを、今日も一手に引き受けるのでした……にょ~……zzz』 『どんな寝言だよ!』 『失礼ね!そんないつもキレてないしっ!』 その寝顔はどこまでも安穏とした笑顔である。
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