第1章 艷めく吐息は火薬の香り

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『あちゃー、逃げられちまったなー』 『そりゃ追いかけてすらないもんね』 アスナの冷たい視線の先、ボッコ用の寝袋のロープを引きずりながらクェンがケラケラと笑う。 当の眠り屋は安らかな寝息を立てたままである。 『コレさえなけりゃこの子、超ハイスペックなんだけどねえ』とボッコのほっぺたをアスナがその白い指でぷにぷにとつつく。 『まあ、そう言ってやるな。この『昼寝』を承知で一緒に旅してんだから。それに地図がなくてもチコは追える。』 『どうやって?』 『こ~やって』 そう言うとクェンは荷物を下ろして石床に膝をついた。 ────ざっくり言うとクェンビースターの『左手』は呪われている 諸々の理由と原因はあるが、今はその説明は留めよう。翻ってどういう『呪い』かと言うと『触れるものを生物・無生物を問わず凍らせる』という類の呪い。 それゆえに呪いの冷気を遮断する封呪のガントレットの着用が必須となる。 クェンが鈍色の古いガントレットを外す。手首から先が永久凍土のような何層にもなる氷皮に覆われており、離れて立つアスナの頬にさえその冷気が棘の如く突き刺さる。 そして、その手を遺跡の青く光る石床にヒタリと当てた。
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