第1章 艷めく吐息は火薬の香り

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ビシビシビキバキバキビキっっ! 氷の牙が走る。水晶色の氷の風はその刃を踊らすや否や、地下遺跡の床、壁、天井を問わず薄明るい氷膜で覆い尽くす。 遺跡内の気温が大きく下がった。 それと同時にクェンの頭に『情報』が流れ込んでくる。 『あっちの……通路だな。5区画分進んだところに更に地下へ潜るスロープがある。その先の三叉路を左、チコは小走りで奥へと向かってる』 閉鎖空間での索敵術、クェンは『魔蔦の凍追(マータ・トゥエイン)』と呼んでいる。 この左手が生み出す『氷』は言わば、クェン自身。手足と同じ身体の一部。すなわちこの氷に触れるものは全てがクェン自身の把握の対象となる。 さらに遺跡内の気温が下がり白みゆく中、寝袋の中のボッコがわずかに身を竦め、荷袋のラギが中で『ハックシャン……ッッ』とくしゃみした。 冷気がさらに増す。 『……その先は相当な大きさの空間になってるな。『魔蔦の凍追』が届き切らん。地底湖の可能性もあるか……』 す……っ 石床から呪いの手を離し、立ち上がる。 『ま、そこで追いつくだろ……て、あれ?』 がちがちがちがちがちがち 得意気に笑って振り向いた先、そこにいたのは睫毛の先まで真っ白になった凍死寸前のアスナ。クェンはわなわなと震える指で、その顔に手を当てる。 『く……っ、アスナ……なんて姿に……』 『……おおおおお前・の・せ・い・じゃぁぁあっっ……』 間近で圧倒的な冷気を帯びた舞闘家の身体は、ものの見事に、その足の先から胸の先まで凍りついていた。 ────ほどなく暖をとって解凍されたアスナによって、クェンがシバかれたのは追記するに値しない(笑)
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