第2章 死を呼ぶ地底湖

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────地下遺跡の最深部。 古代の紋様が刻まれた巨大な石の門。 水流の中から現れる双頭の竜が左右の扉に一体ずつ描かれている。大きさは巨人属が扱うサイズだろうか、通常の人間がどう押し引きをしても開きそうには、ない。 チコは祖父の地図の片隅に書かれた古代文字のメモに目を走らせる。いや、今更読む必要はない。ただの確認だ。もう何万回と目を通してきた。 扉から少し離れたトーチの下に可動するブロックがあるらしい。動かし方こそ書いてはいなかったが、少し調べた後に上方向にスライドする部分を見つけた。動かした先にはレバーらしきものが見える。 (……これね。) ゴゴゴゴゴ…… 巨人の門はレバーと連動し、重いその口を誘うかのごとく開く。興奮でやや頬が紅潮したチコは、その先の景色に思わず『うわぁ……』と声をもらした。 別世界。神秘的なまでの翡翠色の地底湖。 その水の透明度はすこぶる高い。岩壁に発光する翡翠の明かりはヒカリゴケの類いだろう。 これを祖父が自分に見せたかったのだろうかと思うとチコの胸に温かく誇らしい気持ちが宿った。 地底湖からは無数の巨大な鍾乳石が生え、中には高く天井に達しているものもある。天然の地底湖、それを過去の遺跡の住人達は手を加えて使っていたに違いない。 その鍾乳石の柱の向こう。地底湖の遥か先、その中央部には祭壇らしきもののある小島が見える。きっと自分の目的の物はあそこにあるとチコは確信した。 見回すと岩陰に一艘の小舟を見つけた。 櫂もある。なるほど、コレであの祭壇へと向かうのか。足元に転がる小石を蹴り飛ばして、チコは何ら迷うことなく小舟に乗り込んだ。不安定な小舟を体幹で操り、慣れぬ手つきながら翡翠の水面を渡り始める。 ────チコは二つ気付いていなかった。 一つは先刻、開け放った扉が音もなく静かにその入り口を閉ざしていたこと。 そして、もう一つは蹴飛ばした小石は、天然の小石ではなく、割と新しく形骸と化した────『人の骨』だった、ということに。 image=510681651.jpg
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