第2章 死を呼ぶ地底湖

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『マー・ルーは上級龍属と違って悪食なだけに恐ろしく貪欲。一度、獲物と認識されたら地獄の底まで追ってくるわ。ましてやこんな地下の限られた空間で貴方が『本気』を出したら遺跡ごとタダじゃ済まないわよ?』 ラギは石門の中を覗くアスナにも一瞥を向ける。 『……アンタもよ小娘?アンタだって──』 言いかけたその瞬間だった。 きゃああああああああぁぁぁあああっっ! 扉の向こうから響き渡る絹を裂くような叫び声。確かめるまでもない。チコだ。 『いかん。行くぞラギ、アスナっ!』 『くっ、言ってる傍から……』 『ラギっち解ってる。先行くよ!』 駆け出すアスナ、その足取りに迷いはない。続いてクェンが、ラギが。そして、眠ったままのボッコは寝袋ごと否応なしに引き摺られながら口腔の如き暗闇に身を投じて行った。 幻想的な翡翠の地底湖、その奥で中央の小島に向かおうとする小舟が一艘。 ────時間は三分ほど前に遡る。 慣れぬ手つきで持つ櫂も、次第に操るコツを掴んできたチコは翡翠の湖面を順調に巡航していた。 一見、水上に出ている鍾乳石のみに気を取られがちだが、水面下にも無数の鍾乳石がある。油断してボートの底をぶつけない様に細心の注意を払う。 中央島───古の祭壇が近づくにつれチコは自らの気持ちが昂ぶるのを感じた。 祖父の形見の地図の探索とは言えど、これだけの地下遺跡である。何かしら『ステキな物』があっても可笑しくはない。ううん、期待はしていない。期待はしていないわよーと、思いつつ。 『おったから、おったから♪ お宝ほーーーいっっ♪』 ……いや、その一切隠そうとはせずにチコは期待しまくっていた。 チコの心を写すかのようにボートは水面を弾み、滑るかのように渡り進む。しかし、不意に軽やかなはずの船体が『ガクンっ』と躓いた。 『おーたーかーら~~~♪ ……ってアレ?』 舞い上がりすぎて鍾乳石を見落としたかな?と思ったがそれらしいものは見当たらない。船底かな、と思い振り向いたチコは奇妙なモノを目の当たりにした。 ボートの後方、船尾部分。そこに何かが掛かっている。 チコはそれに目を凝らした。
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