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────互いの息が苦しい。
耐え難いプレッシャーと狭い空間。
そこはかとなく香る女の匂い。
しかし、それは危険な艶やかな火薬の香り。目を閉じれば、向かい合う男女の息遣いすら吸い込んでしまいそうな身体の距離。
『ねえ……クェン』
熱っぽく、媚びるかのような視線の年若い女は、覆い被さるように自らに寄る赤髪の男の名を恥ずかしげに呼んだ。
クェンと呼ばれた男のこめかみから一筋の汗、そしてその息遣いは荒い。────吐息。
『……ぁあ、どうした? アスナ……っ』
その深翠色の瞳の中に映り込むロウソクの火、そのゆらめきに互いが幻術に惑うかのような錯覚を覚える。
アスナは夜目の利く紅い瞳を生まれながらに持つ。その目に二つの妖しげな澱みを湛えながら呟いた。
『……このロウソク、消さない……?』
恥ずかしげにアスナが言った。
新進気鋭の舞闘家とはいえ、彼女はまだ年若い。出会ってからの半年。このような状況で肌と肌を密着するのは互いに経験のないことだった。
『……そうだな。俺も……そう思ってた』
二人の身体中に迫る圧迫感に胸がドキドキと早鐘を打つかの如く囃し立てる。息をするのが尚も辛い。
『消すよ……?』
ふ………っ
密室の呼吸がその艶気を増す。
二人はそれぞれにロウソクの火を吹き消した。
闇に包まれることで、より五感は研ぎ澄まされる。互いに感じる熱と一抹の不安は愈々限界を想起させた。
……と、ここで二人は顔を向かい合わせ『……せーの。』と呼吸を合わせる。
すーーー……
『『誰かぁ、たぁすけてぇぇぇぇぇぇーーーっっ(ここから出して~~っっ)』』
────ここはセーヴェライ大陸の青峰にある、とある地下遺跡。
そこで起きた不幸(?)な崩落の現場である────
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