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植物、ではない。
明らかに生物の鉤爪だ。ざわりとチコの背筋に悪寒が走る。危険。そして、ぼとりと何かがボートの甲板上に落ちた。
ギチギチギチギチギチギチ
八足多眼。大きく発達した前顎から分泌された液体が涎のように流れ出している。その異形は蜘蛛の亜形態。
一際、目を引いたのはその背中の燐光だった。それは美しく翡翠色。そう、この地底湖の『翡翠』色。
────まさか。
チコが咄嗟に見上げた岩天井、目を凝らす。翡翠の燐光、よく見れば所々で生物的に動いている。大小様々な燐光、それは湖底にも散見できる。
チコは────理解した。
ここは『狩り場』なのだ。
祖父の地図によって導かれたこの場所は、この蜘蛛のような生物たちの『狩り場』なのだ。秘宝のある場所に棲みついたのか、それとも彼らの棲む地下に何かが出来たのか、それは知らない。
知ったところで意味は無い。
ギュッと手にしていた櫂を両手に握り直す。
抗うしか、ない!
ドサドサドサッ!
そう思い至った時、チコの華奢な身体の上に続けて落下してきた。不快な粘液がねちょりと首筋から肩にかけて付着し、耳元で『ギチギチギチギチギチッ』と嘶く。
振り払う。────その先でボートの下から一際巨大な複眼が覗き、チコを捕捉した。その大きさたるや牛の一頭、二頭のサイズではない。
『きゃああああああああああっっ!』
チコの絹を裂くような悲鳴が翡翠の狩場に大きく木霊した。
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