第3章 眠り屋の咎

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疾く───より疾く。 アスナが、こと戦闘に際した時にイメージするのは陸上最速の獣。 他の生物の追随を許さない孤高の速さに身を躍らせる。 ────と言ってイメージしたのは食肉目ネコ科のチーターなものの、今、自分がいるこの『世界』に、はたしてチーターは生息しているのか。実際のところ、今踏みしめているこの世界が、自分のいた『世界』なのかどうか、アスナは明らかにできない。 『クェンっ、見て! 地底湖になってる。きれーいっ♪』 『言ってる場合かよ。 水面を渡れそうなものは……無いな。』 ゴツゴツした岩場を伝い、降りられる浜を探す。地底湖の水に「ちゃぷり……」と手を浸すと、クェンは翡翠の燐光うずめく仄暗い闇の奥を見据えた。 『よし湖面を凍らせる。お前はそのまま走れアスナ』 『了解っ』 クェンが封呪のガントレットを外す。地底の岩壁を伝って肌を裂くような冷気が一帯に張り詰める。 アスナは本名を『楠ノ木 明日奈』と言う。正真正銘の日本人の女子高生だ。 およそ1年前、この『世界』に来るまでは。
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