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『氷瀑地覆っ!』
湖面に触れたクェンの氷掌。
目も開けられぬほどの恐ろしい冷気が鍾乳石の上を、下を駆け抜け、その先から凄まじい速さで氷の途が凝固し出来上がっていく。
それを足場に地底湖の先の先、チコの乗るボートのある地点まで凍った湖面をアスナは駆け始める。
その、最短距離を。
『……ダメだな。』
しかし、────どう考えても間に合わない。
この一秒が一瞬が、チコの生命を奪っているやもしれないのに。
そう考えたクェンは一瞬の思案の後、自らが背負う大剣を鞘ごと一度外す。
むんずっっ ぎゅっ ぎゅっぎゅっ!
足をかけ力いっぱい結びつける。
そして、徐ろにぐるぐると振り回し、
『背に腹は変えられん。仕方ねえぇぇっ!どぅぅぉぉおおおりゃああああぁっ!』
どひゅーーーんっ!
谺響するクェンの咆哮。強烈な遠心力を利用し『それ』を凄まじい勢いで放り投げる。しかし如何程の怪力か、手近にあった『それ』はレーザービームの如く地底湖の中央へ。
白く張り詰めるほどに澄んだ地底の空気を荒々しく破って、────それは飛ぶ。
凄まじい勢いで翔ぶ。
翔ぶ。
『投げたぁっ! やるぅっ ♪ なら、わたしも急がないとねっ!』
────異世界の生活も悪いことばかりではない。
アスナには、この世界に来て得た物がある。
この大陸において絶対的な畏怖の象徴。比類なき『力』秘めた宝。それは科学の発達した現代をして、成し得ていないオーパーツ級のテクノロジー。
じゃらり、と古いブレスレットの装飾を鳴らしアスナは大きく腕を広げた。
そう、『オデュッセイアの遺産』の一つを。
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