第3章 眠り屋の咎

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氷瀑地覆(ハバ・ヴェ・フェルク)っ!』 湖面に触れたクェンの氷掌。 目も開けられぬほどの恐ろしい冷気が鍾乳石の上を、下を駆け抜け、その先から凄まじい速さで氷の(みち)が凝固し出来上がっていく。 それを足場に地底湖の先の先、チコの乗るボートのある地点まで凍った湖面をアスナは駆け始める。 その、最短距離を。 『……ダメだな。』 しかし、────どう考えても間に合わない。 この一秒が一瞬が、チコの生命を奪っているやもしれないのに。 そう考えたクェンは一瞬の思案の後、自らが背負う大剣を鞘ごと一度外す。 むんずっっ ぎゅっ ぎゅっぎゅっ! 足をかけ力いっぱい結びつける。 そして、徐ろにぐるぐると振り回し、 『背に腹は変えられん。仕方ねえぇぇっ!どぅぅぉぉおおおりゃああああぁっ!』 どひゅーーーんっ! 谺響するクェンの咆哮。強烈な遠心力を利用し『それ』を凄まじい勢いで放り投げる。しかし如何程の怪力か、手近にあった『それ』はレーザービームの如く地底湖の中央へ。 白く張り詰めるほどに澄んだ地底の空気を荒々しく破って、────それは飛ぶ。 凄まじい勢いで翔ぶ。 翔ぶ。 『投げたぁっ! やるぅっ ♪ なら、わたしも急がないとねっ!』 ────異世界の生活も悪いことばかりではない。 アスナには、この世界に来て得た物がある。 この大陸において絶対的な畏怖の象徴。比類なき『力』秘めた宝。それは科学の発達した現代をして、成し得ていないオーパーツ(クラス)のテクノロジー。 じゃらり、と古いブレスレットの装飾を鳴らしアスナは大きく腕を広げた。 そう、『オデュッセイアの遺産』の一つを。
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