85人が本棚に入れています
本棚に追加
大きさにして成人男性の手のひら程の大きさ。
リスや小鳥、小動物サイズの少女が顔を出す……と途端に大声でまくし立てた。背中に生やした羽根を精いっぱいに広げ激昂しながら、
『あーーっっ、もーっっ!苦しかったァアーーっっ!何よ何よなんなのよっ、何の嫌がらせよっ☆』
途端に騒々しい。りぃんりぃんと反響する声が床に壁に、天井にぶつかって暗がりへと抜けていく。
『まぁたアンタね、狐女!
またこのラギさんが寝てる間に一計仕掛けよーとしたでしょっ!?そうでしょそうでしょ!違いないでしょッ』
翡翠色した長い髪、蔦のような刺青の入った細い腕を、慌しく右へ左へ動かしながら小さな女は怒りを顕わにする。アスナはアスナで『狐女』と呼ばれ、額に血筋を立てた。
『……ンっっなわけあるかっってーの!
危うく押し潰されるのはコッチだったんだからね。生命の危機は変わんねってーのっっ』
ラギは『へー…』と腕組みし、アスナの顔をじろじろと舐めるように見回す。
『…………ふーん。その割には暗闇の中で嬉しそーにクェンと『ロウソク ふー』とかやってたじゃない。随分とヨユーな生命の危機もあったもんね?』
『よ……っ、よ、余裕じゃないしっ、てか見てたんじゃないっ! アンタの方がタチ悪いじゃん!』
先刻の暗闇の中の艶気を思い出し、形の良いアスナの頬に朱が走る。こういう所作が出るあたり、未だ彼女が『こーゆー方面』に未成熟なことが見て取れる。
『見てないわ。袋の中でぐるんぐるんになりながらきーてただけよ。……まったく、コレだから発情期の狐女は目を離せやしない。どこでだって色気づくんだから……』
敵意と悪意しかないラギの物言いにアスナが舌打ちする。
『……っ……言いたいこと言いやがって……』
『あ、おい。アスナ』
マズいと感じて止めようとしたクェンの手と言葉は届かなかった。その束ねた髪を肉食獣の鬣の如く振り回す。
『……っだから……だから事故だって言ってんでしょっ。爬虫類の嫉妬も大概にしろっ!このトカゲ女ーーーっっ!』
ぴきっ
今度はラギの眉間に血筋が走る。
『トカゲ』は彼女にとって禁句なのである。
『……とかげ、トカゲ、蜥蜴……あぁぁぁーーーっっ、トカゲって言ったーーーっっ』
旅袋の端が引きちぎれそうな程に、ギリギリとラギの爪が食い込む。
最初のコメントを投稿しよう!