第1章 艷めく吐息は火薬の香り

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大きさにして成人男性の手のひら程の大きさ。 リスや小鳥、小動物サイズの少女が顔を出す……と途端に大声でまくし立てた。背中に生やした羽根を精いっぱいに広げ激昂しながら、 『あーーっっ、もーっっ!苦しかったァアーーっっ!何よ何よなんなのよっ、何の嫌がらせよっ☆』 途端に騒々しい。りぃんりぃんと反響する声が床に壁に、天井にぶつかって暗がりへと抜けていく。 『まぁたアンタね、狐女! またこのラギさんが寝てる間に一計仕掛けよーとしたでしょっ!?そうでしょそうでしょ!違いないでしょッ』 翡翠色した長い髪、蔦のような刺青の入った細い腕を、慌しく右へ左へ動かしながら小さな女は怒りを顕わにする。アスナはアスナで『狐女』と呼ばれ、額に血筋を立てた。 『……ンっっなわけあるかっってーの! 危うく押し潰されるのはコッチだったんだからね。生命の危機は変わんねってーのっっ』 ラギは『へー…』と腕組みし、アスナの顔をじろじろと舐めるように見回す。 『…………ふーん。その割には暗闇の中で嬉しそーにクェンと『ロウソク ふー』とかやってたじゃない。随分とヨユーな生命の危機もあったもんね?』 『よ……っ、よ、余裕じゃないしっ、てか見てたんじゃないっ! アンタの方がタチ悪いじゃん!』 先刻の暗闇の中の艶気を思い出し、形の良いアスナの頬に朱が走る。こういう所作が出るあたり、未だ彼女が『こーゆー方面』に未成熟なことが見て取れる。 『見てないわ。袋の中でぐるんぐるんになりながらきーてただけよ。……まったく、コレだから発情期の狐女は目を離せやしない。どこでだって色気づくんだから……』 敵意と悪意しかないラギの物言いにアスナが舌打ちする。 『……っ……言いたいこと言いやがって……』 『あ、おい。アスナ』 マズいと感じて止めようとしたクェンの手と言葉は届かなかった。その束ねた髪を肉食獣の鬣の如く振り回す。 『……っだから……だから事故だって言ってんでしょっ。爬虫類の嫉妬も大概にしろっ!このトカゲ女ーーーっっ!』 ぴきっ 今度はラギの眉間に血筋が走る。 『トカゲ』は彼女にとって禁句なのである。 『……とかげ、トカゲ、蜥蜴……あぁぁぁーーーっっ、トカゲって言ったーーーっっ』 旅袋の端が引きちぎれそうな程に、ギリギリとラギの爪が食い込む。
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