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その里子の傍を、赤いランドセルをカチャカチャと揺らして女の子達が駆け抜けていった。「授業、終わったか」里子は、校門越しに、小学校の方へ目を向けた。校門を入った直ぐ先に「美わしい心」と掘リこまれた、軽自動車程の大きさもある石碑がドッシリと居座っていて、その周りを小さな緑の生け垣が囲んでいる。里子は、首を動かし下駄箱の方の様子を探ろうとしたが、その石碑のお陰で校舎内の下駄箱があるロビーの天井部分しか見ることができなかった。場所を移動すれば見えるのだろうけれど、そこまでするのは面倒に思えて、里子爪先立ちになっていた足の踵を、ペタンと地面につけ、直立の体勢に戻った。
里子の傘には、絶え間なくポツポツ雨音が響いている。その音を聞いていると、昔々、里子が傘を忘れた事に気がついて、祖母が傘を小学校まで届けてくれた日の記憶がなぜか蘇ってきた。「ふふっ、懐かしい」里子の口元が、自然に緩んだ。
「おつかれぇー」
少女の気分になっていた里子を、女の子の声が勢いよく邪魔をした。ハッとして、目の焦点を合わせると、里子の目の前に、赤いランドセルを背負った、背中の半分くらいまである長い髪を一つに括っている娘のアヤが立っていた。里子は母に戻った。
「雨だから来たよ、アヤ」
里子は二、三歩進んでアヤの傍に行くと、頭に軽く手を置き、そっと撫でた。アヤは、照れくさそうに、その手の動きに合わせて、頭を右に左に振った。
「あっ、あなた傘は?」
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