第1章

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 雨雲に覆われて、空気もなにもかもどんよりしている中、オレの心だけは晴れだった。そう言えるくらい幸せな気持ちだった。  土砂降りの雨の中、オレは約束の場所へと向かう。走っているから、傘はほとんど意味をなしていない。雨粒が体にあたって濡れるが、気にするような問題じゃない。  いつもの場所へ早く行きたかった。  水たまりに足を突っ込み、水しぶきが上がり、ズボンが濡れるが、それすらも気にすべきことではなかった。靴の中がぐしょぐしょで、心地が悪くても走る速度を緩めない。  そしてようやく、いつもの場所に着く。田んぼ道の側にある、もう本来の用途では使われていないバス停待合小屋へ。古く、ところどころ木が腐っていて、雨漏れをしていて、小屋の中に大きな水たまりができていた。ちょっとした池の様だ。  壁には神棚がある。きっと交通安全のためのものだろう。  時々、おじいちゃんおばあちゃんが休憩所に使っているので、まだ新しいプラスチック製のベンチが置いてある。そこに腰をかけて……約束の相手に声をかける。 「おまたせ。待った?」 「うん、待った。でも、急いで来てくれたようだから、許してあげるね」  彼女は、からかうようにいたずらな笑顔を浮かべてオレにいう。その花の咲いたような笑顔がかわいくて、オレもつい笑顔になってしまう。 「今日は高校どうだった?」 「うーん、まあまあ。体育がなくなったのはちょっと残念だったけど、それ以外は普通。君はどうだった? ……今日は大丈夫だった?」 「……ううん、だめだった。やっぱ転校生は馴染み難いよ。ハーフだし」  彼女は、言い訳に自分の容姿を使う。綺麗なプラチナブロンドの髪、碧玉の瞳、白い陶磁器のような肌。長いまつげに、かわいい小さな花のような唇。  ハーフと彼女は言うけども、見た目は西洋の女の子だ。きれいで、モデルや女優をやっていてもおかしくないくらい美しい女の子。  その容姿のせいで……学校になじめていないようだ。転校して半年たっても友達と呼べる人は、オレ以外にいないらしい。 「みんな、あなたみたいに受け入れてくれる人だったらいいのになぁ」  さびしそうに、泣きそうな声でぽつりと言う。 「……ねえ、慰めてほしい。あなたに甘えたい」 「……オレも、君を慰めたいよ。君がしてくれた以上に」
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