第1章

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 昔、初めてあったころ、オレは部活を引退せざるを得ない事故をしてしまって……ふてくされてた。回りのみんなはただ可哀想なやつ扱いで、嫌な気分になって……雨の日に傘もささずにここに来ると……彼女にあったんだ。  プラチナブロンドの髪がきれいで、雨の雫のせいで、女神ように思ってしまったほど。  その時、彼女だって辛かったのに、オレの話を聞いてくれた。……ただ、聞いてくれた。  憐れみもなにもせず、受け入れてくれた。  だから、オレも恩返しがしたいのに。 「触れられたらよかったのに。もしくは、君が居る場所に行ければ……」 「来て欲しいよ。私は――に住んでるんだよ……きっと来られるはずなのに」  相変わらず、住んでいる場所が聞こえない。  彼女の名前も、場所も、なにもわからない。時々、落ちる雨漏れの雫で、彼女の姿が揺らぐ。……水たまりの水面に浮かぶ彼女の姿が。  彼女は水たまりに映っていて、直接出会ったことはなかった。出会うことは出来なかった。オレと同じように水たまりの前にいて、同じように話している。  雨の日に、この待合小屋の水たまりにだけ、彼女が映る。原理は解らない。なにかのオカルトのようなものかもしれないが、彼女と話せるのなら何でもよかった。  おしゃべりできるのに……なぜか、名前と住所だけは聞こえない。なにかが邪魔をする。  だから、今まで実際に合うことはできなかった。  事故のせいで、精神がやられて見てしまった幻覚じゃないかと最初はおもってしまった。だけど……今は心の底から思える。彼女は現実に生きて、悩んでいる一人の女の子だと。  優しくて、めげずに頑張っている女の子なんだ。……いつの間にか恋してしまうくらい素敵な女の子なんだ。  初めてであった日から、雨の日にここで会おうと約束して……半年、梅雨になった今は、いっぱい会えるけど、雨が降らない日が続いたらと考えると不安だ。二週間会えないだけで苦しいのに。 オレは、水たまりの縁に膝をつき、覗き込む。ズボンがぬかるんだ泥で汚れるのを構わずに。  彼女も、同じように水たまりに顔を近づけた。可愛い顔がいつもより近いのは嬉しいけど、泣きそうな表情に胸が締め付けられる。  オレと彼女は、無言で見つめ合う。響くのは、待合小屋の外で響く雨音と、雨漏れする雫のぽちゃんという断続的な音だけ。
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