瀬山恵子 1

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「ただいまー」 「ああ、恵ちゃん面接どうだった?」 「あ、無理っ」 「あんた、街で暮らしてたプライドなんて捨てて、仕事早よう決めなさいよ、ったく」  実家へ帰ると、暖かく迎えてくれると思っていたのは、想像の中だけだった。言葉にしないが、父親は表情が緩む時があるものの、母親は〝働かざるもの食うべからず〟と、圧力をかけてくる。 「はぁい」  高校の時と同じような気の抜けた返事をして階段を上った。部屋に入ってベッドに横たわる。ふと目に入ったのは、隅に置いてある小さなダンボールだった。恵子がガムテープを剥がして中を覗くと、少し大きめの手帳と、裏返しになった写真立てが入っていた。  写真立てを手に取ると、卒業証書を手に満面の笑みを浮かべた恵子と友達二人が写っていた。左右にに写る二人は岩淵純子(いわぶちじゅんこ)と、長谷川奈帆(はせがわなほ)。高校三年間ずっと同じクラスて、仲良し三人組と呼ばれていた。  懐かしさに胸を焦がしながら手帳を開いた。 「あ......」  思わず出した声は、後悔を蘇らせてしまった――――
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