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「東京ってさ、祭りん時くらい人が多いんよな?」
「恵子、芸能人に会ったらサイン貰ってや、サイン!」
「もうっ、純子も奈帆も一緒に質問してこんでや!」
卒業を控えた高三の放課後は、笑い声が溢れていた。田舎の高校から唯一、恵子だけが東京の大学へ行くという事で、校内ではちょっとした有名人になっていた。
「瀬山、ちょっとええか?」
「ああ、真ちゃん、何?」
ひょろりと背が高い、顔中ニキビだらけの笠木真太郎が、賑わう三人の会話に割って入った。
真ちゃんは教室を出ようと、恵子だけを呼び出した――
怪しむような言葉で二人に茶化されながら、真ちゃんの後について歩くと、影になった校舎裏で彼の足は止まった。三年間この学校で過ごしたが、こんな場所がある事は知らなかった、校舎と校舎の間、人気が全く無いこの場所でされる事はおおよそ、予想がついていた。
「瀬山......俺、お前の事が......」
「言わんで......真ちゃん」
真ちゃんは友達だった、からかわれたり、からかったり、気軽に話せるいい友達。その真ちゃんの気持ちは、純子と奈帆から聞いて知っていた。いつになく真剣な眼差しから目をそらす。
「え?」
「私、東京行くんよ......真ちゃんには、もっといい人がいると思う......だからその先は、言わんで......」
「瀬山でも俺......」
「しっつこい男は嫌われるよー!」
ニカッと笑い、恵子は逃げるようにその場から走り去った――――
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