そして、私は出会った

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 と、ヒュリリはあくびする。いや、かみ殺しはした。 「そんな」 「壊すのが専門だから、面倒だから、言ってるんじゃないから。……ねぇ。この状況だよ? そんなことより、あなたが生き延びられる選択をすれば?」  ヒュリリが息を吐いた。 「そんなことより――。そんなことより、だと?」  ゾマニィは怒りを覚えた。表情にも出たが、ヒュリリは素知らぬ顔。 「そんなことより、だよ。今必要なのは、生き延びられる選択なんじゃない?」 「生き延びられる選択……」  正直、どうでもよくなっていた。ビントはもう、戻らないのだ。 「対価を払うというのなら、ヒュリリが身体を弄ってあげる。能力を足してあげる」 「対価? 能力を足す?」 「この、魔物の群れを率いているのは、下位とはいえ、魔神。あなたにどうこう出来る相手ではない。でも、ヒュリリなら力になってあげられる。対価を払うならね」  魔物の群れを率いる首領――ビントに致命傷を負わせたあれは、下位の魔神だったのだ。 「……対価、とは?」  口から出たのは、自分でも驚く程の暗い声だった。 「子を残す能力を差し出してもらう。種としての鎖を断ち切って、あなたという個を強化してあげる」 「それで、魔神に勝てるのか?」 「えぇ。取り敢えずは、届く」 「では、お願いする。やってくれ」 「思い切りがいいのね」 「ビントがいないんじゃ、子供なんてどうでもいい」  結婚し、家に……家庭に入るという未来はもうない。他の男の子供を産むことは、考えられなかった。 「あら、一途。ゼマにそっくりね」 「ゼマ?」  ゾマニィは記憶を辿った。ゼマという名前の心当たりは一人だけだった。 「それは……。私の祖母のことか?」 「そう、ゼマ。ヒュリリの親友」  と、彼女は口の動きだけで笑って見せた。 「親友……」  ゾマニィの顔に、困惑の色が浮かんだ。しかし、それも僅かな間のこと。 「それじゃ、本当にいいのね?」 「あぁ。やってくれ」  ゾマニィは立ち上がり、ヒュリリが頷いた。ヒュリリの右手がゾマニィの身体に入り込む。出血したりはしないが、全身を掻き回される。  やがて――ヒュリリは、ゾマニィから離れた。 「どう?」 「分からない。でも、悪い感じはしない」
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