3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
と、ヒュリリはあくびする。いや、かみ殺しはした。
「そんな」
「壊すのが専門だから、面倒だから、言ってるんじゃないから。……ねぇ。この状況だよ? そんなことより、あなたが生き延びられる選択をすれば?」
ヒュリリが息を吐いた。
「そんなことより――。そんなことより、だと?」
ゾマニィは怒りを覚えた。表情にも出たが、ヒュリリは素知らぬ顔。
「そんなことより、だよ。今必要なのは、生き延びられる選択なんじゃない?」
「生き延びられる選択……」
正直、どうでもよくなっていた。ビントはもう、戻らないのだ。
「対価を払うというのなら、ヒュリリが身体を弄ってあげる。能力を足してあげる」
「対価? 能力を足す?」
「この、魔物の群れを率いているのは、下位とはいえ、魔神。あなたにどうこう出来る相手ではない。でも、ヒュリリなら力になってあげられる。対価を払うならね」
魔物の群れを率いる首領――ビントに致命傷を負わせたあれは、下位の魔神だったのだ。
「……対価、とは?」
口から出たのは、自分でも驚く程の暗い声だった。
「子を残す能力を差し出してもらう。種としての鎖を断ち切って、あなたという個を強化してあげる」
「それで、魔神に勝てるのか?」
「えぇ。取り敢えずは、届く」
「では、お願いする。やってくれ」
「思い切りがいいのね」
「ビントがいないんじゃ、子供なんてどうでもいい」
結婚し、家に……家庭に入るという未来はもうない。他の男の子供を産むことは、考えられなかった。
「あら、一途。ゼマにそっくりね」
「ゼマ?」
ゾマニィは記憶を辿った。ゼマという名前の心当たりは一人だけだった。
「それは……。私の祖母のことか?」
「そう、ゼマ。ヒュリリの親友」
と、彼女は口の動きだけで笑って見せた。
「親友……」
ゾマニィの顔に、困惑の色が浮かんだ。しかし、それも僅かな間のこと。
「それじゃ、本当にいいのね?」
「あぁ。やってくれ」
ゾマニィは立ち上がり、ヒュリリが頷いた。ヒュリリの右手がゾマニィの身体に入り込む。出血したりはしないが、全身を掻き回される。
やがて――ヒュリリは、ゾマニィから離れた。
「どう?」
「分からない。でも、悪い感じはしない」
最初のコメントを投稿しよう!