第1話 謎のレコーダー現る

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ヒーローが気障男を振り返ると、男は花束を空に投げ出して「変身」とつぶやいた。男の体をCGが包んで行く。どうやら新ヒーローのようだ。特撮ヒーロー番組のヒーローは1人とは限らない。主役は決まっていても2人目、3人目のヒーローが現れることは珍しくない。変身完了した新ヒーローの背後に、彼が先ほど投げた薔薇が今度はスローモーションのように舞い降りて行く。2人のヒーローのアップから引きの全体像が映った後、再びCMになった。布団から這い出した直人は、冷蔵庫からペットボトルを取り出し、昨夜コンビニで買っておいた食糧の入ったレジ袋と共にテレビの前のテーブルに置いた。 藤崎直人(ふじさきなおと)は大学3年生だ。入学と同時に上京してこのアパートで独り暮らしをしている。彼が毎週日曜日に、この特撮ヒーロー番組を見るようになったのは、同じ大学に通う彼女の影響だ。ある日、一緒にキャンパスを歩いていた彼女が、突然直人の腕を強く掴んで立ち止まった。 「ねえ、あれ、(しょう)よ、翔!」 自分を見ている時より明らかにキラキラした彼女の瞳が向けられている方向を目でたどると、同じ大学生と思われる、しかしやけに華やかなオーラを放つイケメンが歩いていた。 「・・・誰?」 「知らないの?日曜の朝のヒーロー番組の主役やってる、矢島翔(やじましょう)よ」 日曜の朝なんて睡眠時間だよと思いながら、直人はイケメンを目で追った。 「知らないな。芸能人?」 「そうよ。彼ウチの大学だって聞いてたけど、構内で会えるなんて感激!」 「へーえ」 確かに美形だし運動神経も良さそうな体つきだ。ウチの大学ってことは頭も悪くはないわけだと考えている間に彼女は直人の横から消え、矢島翔と握手していた。それを呆然と眺めていたら翔と目が合ってしまい直人は慌てて視線を逸らせたが翔の方が近づいてきた。 「こんにちは。矢島翔と申します。俳優やってます。どうぞよろしくお願いします」 何がよろしくだと思いつつ顔を上げた直人は、矢島翔の芸能人スマイルに完敗して差し出された大きくて綺麗な変身ポーズに最適な手を素直に握ってしまった。
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