第1話 謎のレコーダー現る

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そして握手を終えてさわやかに翔が去って行くと、彼女は夢見心地な表情で翔への思いを語り出した。それまでなんとなく直人に遠慮して話していなかったが、彼女は翔が端役でドラマに出始めた頃からのファンで、主役のヒーロー番組は初回から毎週観ているのだと言う。翔本人も格好いいけど、そのヒーロー番組で演じている主人公がまた格好いいのよと、彼女は語り続けた。 それで興味を持った直人は、次の日曜日テレビのオンタイマーをセットしてそのヒーロー番組を見てみた。キャンパスで見た矢島翔は温和な印象だったが、演じているのは力強く孤高なヒーローだった。男から見ても格好いい。どうせ子供向けだと思っていたストーリーもなかなか趣向を凝らしていて面白く、ちょっと確認するだけのつもりが、予想外に引き込まれて最後まで観てしまった。 (円香(まどか)ってこういう男がタイプだったのか) 円香というのは彼女の名前だ。付き合い始めてそろそろ1年になる。先に好きになって口説き落としたのは直人の方だ。同じ大学に通っているということ以外に翔との共通項が見つからず直人は焦ったが、前向きな彼は番組を観て研究するようになった。まずは形からとファッションを真似てみたら、案外似合って彼女に誉められ益々熱心に視聴するようになると段々番組自体にも嵌ってきて、インターネットの特撮番組専用の掲示板までチェックするようになった。そうして今週も番組を見終わって一息つくと、直人は特撮番組専用の掲示板を開き、先ほど見たヒーロー番組のスレッドをチェックした。 「うわっ、もう次スレ立ってる。あー、今日の脚本、上木さんか」 上木という脚本家は特撮ファンの間では有名な脚本家だ。有名な理由は2つ。1つは初期の特撮番組の監督とヒロインの間に産まれたサラブレッドであること。もう1つは奇抜なキャラクターで斬新なストーリー展開をする脚本を書くこと。 特撮番組は一般のドラマと違って1人の脚本家が一貫して脚本を書くのではなく、複数の脚本家が数話ずつ書いていくことがある。他の脚本家の回には脚本家の名前などほとんど話題にならないが、彼が書いた回には必ず彼が話題になり、肯定派と否定派に別れてちょっとした諍いが起こる。やっぱり上木脚本は糞、いや上木は神等々、話の内容とは微妙にずれた罵り合いでスレッドが消費され、次のスレッドが立つのが早い。
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