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「タナベサクラだよ」
「タナベサクラ?え、タナベって・・・」
「帰るなら今の内だよ」
女の子は澄ました顔で言った。
「そりゃ帰りたいけど、翔を残して独りで帰るわけにいかないよ」
「ふーん」
女の子はつまらなそうな顔をして立ち去ろうとした。直人は慌てて声をかけた。
「ちょっと待ってよ」
「だって、帰らないんでしょ?」
女の子は首を傾げた。
「一度帰って、戻って来ることは出来ないの?」
「うーん、出来ないこともないけど」
「じゃあ頼むよ!彼女が心配してると思うし、両親にも連絡しておきたいし」
「ふーん」
女の子は少し考えた。
「じゃあ、タイマーセットするね。一度帰してあげるけど、日付が変わったら強制送還されるから」
「日付が変わるって・・・夜中の12時ってこと?」
「そうよ。それでいい?」
まだ日は高い。ここと向こうの時間の流れが同じかどうかはわからないが、時間が限られているなら早く行った方がいい。
「いいよ」
「じゃあ、目をつぶっててね」
女の子の小さな手が、目を閉じた直人の手を握った。直人は体の感覚が薄れていくのを感じながら、女の子に身を任せた。
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