第1話 謎のレコーダー現る

1/14
前へ
/146ページ
次へ

第1話 謎のレコーダー現る

ズン、ダダダン、ズドーン! 薄暗い室内に劇的なサウンドが鳴り響く。日曜日の朝だ。直人(なおと)は布団から手を伸ばし、テレビのリモコンを掴み取ると、ボリュームを下げた。 オープニングソングに続くCMが開けると、ようやく直人は布団から顔を出し、テレビ画面に向かった。画面には同世代のイケメン俳優が映っている。 『変身!』 見る間に俳優の体をCGが包んで行く。変身が完了すると、メタリックなボディの、見るからに強そうなヒーローが画面に映し出された。画面上は俳優がヒーローに変身したように見えるが、実際にはここでスタントマンと入れ替わっている。破格に強い素材で出来ていて身体能力をアップさせ、考えられない技を発動させるというのはあくまで架空のストーリー上の設定であって、現実には逆に動きも感覚も制限される。スポーツ万能の俳優であっても、素人が装着してアクションをするには限界があるし、危険だ。だからスーツアクターと呼ばれる専門の役者がヒーローのスーツを着て戦い、変身前の姿を演じている俳優がアニメの要領でアフレコをする。そしてもちろん、敵もそういう形状の生物ではなく着ぐるみだ。ヒーローは変身後もスマートな体つきだが、敵には色々な形状の突起物がついている。 (あんなの着て、よく動けるなあ。今日の敵はまた一段と動き難そうだな。地は厚そうだけど、あんなに派手に転んだら痛いんじゃないか?) 直人は去年、一度だけ遊園地で着ぐるみのバイトをした。立っているだけでも体力を消耗する想像以上にキツイ仕事で、脱水症で死ぬんじゃないかと思った。そしてどんなに金に困っても二度と着ぐるみのバイトはしないと心に誓った。テレビ用の着ぐるみは観光地の小さな遊園地で使うそれよりは工夫されているかもしれないが、決して激しい動きに適した格好ではないだろう。 感心しながら眺めていると、真っ赤な薔薇の花束を抱えた気障な男が現れた。男は花束の中から一本薔薇を抜き取り、敵に向かって投げた。薔薇はまるでエンジンを搭載しているかのような勢いで飛んでいき、敵の目に刺さった。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加